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名古屋高等裁判所 昭和23年(ナ)48号 判決

原告

岡田桃太郞

外一名

被告

愛知縣選擧管理委員會

主文

昭和二十二年四月三十日執行せられた愛知縣碧海郡安城町會議員選擧に關し、被告が同年七月十九日なした各裁決並に安城町選擧管理委員會が同年六月六日なした決定はこれを取消す。

原告岡田桃太郞のその餘の請求は棄却する。

訴訟費用中原告岡田と被告間に生じたものは同原告、原告吉見と被告間に生じたものは被告の負擔とする。

請求の趣旨

原告岡田桃太郞「昭和二十二年四月三十日執行の愛知縣碧海郡安城町町會議員選擧における選擧並に當選の效力に對する訴願に對し、被告が同年七月十九日なした『選擧並に當選無效申立に對し、安城町選擧管理委員會の與えた決定は取消すべき限りでない。』という裁決は、これを取消す。右選擧は無效である。訴訟費用は被告の負擔とする。」

原告吉見弘「昭和二十二年四月三十日執行の愛知縣碧海郡安城町會議員選擧について原告岡田がなした選擧並に當選の效力に對する訴願に對し、被告がなした選擧の一部並に原告吉見弘の當選を無效とする趣旨の裁決は取消す。選擧並に當選は有效とする。訴訟費用は被告の負擔とする。」

理由

昭和二十二年四月三十日執行せられた愛知縣碧海郡安城町會議員選擧において、原告吉見弘外二十九名が當選人と決定せられたところ、選擧人たる原告岡田桃太郞が安城町選擧管理委員會に對し異議の申立をし、同選擧管理委員會が原告等主張のような決定をしたこと、これに對し原告等はそれぞれ被告委員會に訴願をしたところ、被告委員會は安城町選擧管理委員會の決定を取消すべき限りでない旨の裁決を與へたことは、當事者間に爭のないところである。

原告吉見弘代理人は、原告岡田桃太郞は安城町選擧管理委員會に對し、さきになした異議申立を取下げたから、同管理委員會の原決定並に被告管理委員會の裁決は當然取消さるべきであると主張し、原告岡田が昭和二十三年一月十日、右取下の書面を安城町選擧管理委員會に提出したことは成立に爭のない甲第一號證によつて認められるけれども、右異議申立が取下げ得ることについては法に何等の規定がなく、事の性質上異議申立が受理せられ、これに對して決定がなされた以上、もはやこれが取下は不能であると解するのが相當であるから、この點に對する同吉見原告の主張は排斥しなければならぬ。

つぎに原告岡田桃太郞の主張についてみるに、前記の選擧において國籍のない無權利者の投票が二票、その他代人による投票が數票あるというのであるが、それだけでは投票の無效を生ずるのみであつて、選擧の規定に違反するとはいえない。この點について被告の裁決及び安城町選擧管理委員會の決定が、選擧の一部が無效であるといつているのは誤であつて、本選擧においては被告の認めるように選擧區、投票區、開票區が共に一箇であるから、選擧の一部無效ということは起り得ないのである。同原告はまた右の選擧において候補者による買收行爲が廣く行われたというが、これまた箇々の當選の無效を來すことがあるに止まり、選擧の效力に影響を及ぼすものではない。

その他右安城町の選擧において選擧の規定に違反し、それが選擧の結果に異動を及ぼす慮れある事實を認める證據がないので、右選擧は無效とはいえない。從つて、右選擧を無效とする趣旨の判決を求むる部分の同原告の請求は棄却を免れない。

しかし、原告岡田桃太郞が當初安城町選擧管理委員えなした異議申立は、成立に爭なき甲第二號證によれば、選擧並に當選無效の申立というのであつて、その内容も果して選擧の無效を主張するのか、當選の無效を主張するのか、一見明瞭ではないが、これを成立に爭のない甲第三號證の二訴願書並に前記本訴として主張するところ及び同原告本人訊問の結果を照し合せて見ると、同原告の異議申立は選擧全部の無效を主張するにあつて、箇々の當選の效力を爭う趣旨ではなかつたとするのが相當である。そこで安城町選擧管理委員會としては、當裁判所の認めたように、選擧の效力に異動を及ぼすべき選擧の規定に違反する事實のないことを理由として、異議の申立を却下すべきであつて、投票の有效無效を云々して、箇々の當選の有效無效の審理に入るべきではなかつたのである。すなわち選擧無效の異議申立については、選擧の結果に異動を及ぼす慮ある選擧規定違反の事實のみを審理すべきであつて、それ以上當選の效力について審理決定するのは申立のないことをしたことになり、違法である。當選の效力に關する異議は、選擧の有效なことが前提となるのであるから、これが審理には當然選擧の效力に關する判斷を必要とするが、選擧の效力に關する異議においては、當選の效力に關しては判斷の範圍外である。

原告岡田の被告に對する訴願も前記證據に照し、また選擧の效力に關するものであつて、當選の效力に關するものではない。したがつて、被告委員會がなした安城町県選擧管理委員會の決定を維持する旨の裁決も不當であつて、この點に關する原告吉見代理人の主張は正當である。

よつてその余の判斷を省略し、訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條、第九十二條を適用して、主文のとおり判決する。

(藤江 茶谷 白木)

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